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本当に伝えたかったのは・・・

 

 

 

 

イエローリボン

 

戦地に赴いた兵士の家族が、帰りを待ちわびている思いを伝えるために木やエントランスに黄色いリボンを結んだもの

· 留学先,遠い記憶,優しい思い出

「ウチでお茶しない?もっとお話ししたいわ。」

と、ナンパされたのは学校帰りのグロッセリーストア。

その頃、私は留学と言う名の長い旅行をスタートさせたばかりだった。

料理用のオイルを探しにきたものの

アメリカ特有の巨大なストアには、途方もない種類のオイルが並んでいて

何が何のためのどういうオイルなのかさっぱり分からず右往左往していた。

すると・・・

これは揚げ物に使うといいわ。

こっちはドレッシングに向いてるわね。

これは高いばっかりで良くないわ。

私はコレがお気に入りよ。

呆然とする私をつかまえて、懇切丁寧に説明してくれたのが彼女だった。

シルバーグレーの品の良い老婦人といった出で立ちで、

おっとりとした話し方が優しかった。

語学力もコミュニケーション能力も足りない

見るからにボーっとした日本人留学生。

彼女の目には、そんな風に映っていたのだろう。

昨日タルトを焼いたからちょうど良かったわ。

誰かよんでお茶したいと思っていたところなのよ。

まだ友達もいなくて会話に飢えていた私は

喜んで彼女について行った。

あの頃の私を誘拐するのは本当に簡単だったと、今でも思う。

2階建ての家の階段に沿った壁には、家族の写真がびっしりと飾られていた。

その中には、見るからに新しい写真がいくつかあって、

がっしりとした体格の好青年が写っていた。

ドレスブルー?

海兵隊の制服に似ているような気がした。

ウエッジウッドのプレートにはこんがりキツネ色に焼けたタルト。

紅いアップルティからは甘い香りがした。

どこから来たの?

なにが好き?

あなたの家族はどんな人?

私の焼いたタルトは気に入ってくれた?

彼女は自分のことはほとんど話さず、根気よく私から言葉を引き出してくれた。

カタコトしか話せない孫の話しを嬉しそうに聞くおばあちゃんのように

包み込むような優しさを素直に感じていれば良かったのに

初対面の人の家にいる緊張感と

伝えたい事が思うように伝えられないもどかしさに、私は固まっていた。

だけど彼女は、そんな固まったままの私を

ぎゅっと抱きしめて・・・

大丈夫よ、

あなたはきっと大丈夫。

なにも心配することはないわ。

人生を楽しんで。今ここから楽しんでちょうだい。

彼女はそう言いながら、さよならのハグをしてくれた。

帰り際、振り返って見た彼女の家の屋根には

大きな黄色いリボンがついていた。

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