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不幸の存在しない世界

· カメ,産卵,

ウミガメの産卵見学ツアーというものがあった。

クジ運の悪い親子には、残念ながらチャンスはめぐってこなくて

実物を見たことがないまま、現在に至っている。

テレビの教育番組で見たのは、ポロポロと涙をこぼす母ガメが、

ピンポン球のような真っ白い卵を次々と産み落とす様子。

眠ってしまった息子に、見てきたかのように話そうと

ささやかな集中力を総動員させて見入っていた。

 

産卵から2ヶ月ほどすると孵化し始め、その数日後には被せた砂から顔を出す。

子ガメちゃん達は、小さな手足をパタパタと動かして、

誰が呼ぶわけでもなく、誰が教えたわけでもないのに

海へと向かって進むそうだ。

ところが、中には海とは反対の方向へと進んでしまうのがいる。

明るすぎる市街地の光だったり、環境ホルモンだったり

理由はいろいろありそうだけど

生まれた時と産卵のとき以外は海から出ないウミガメが、海と反対の方向へ進めば

まさしくそれは、死の行進となる。

次の朝、見学ツアーの抽選にハズレた母は

実際には見ることのなかった産卵シーンをせっせと語る。

・・・生まれた子ガメは自分で海に向かっていくんだって。

でもね、海じゃない方に行っちゃう子もいてね・・・

「じゃあ、その子は陸ガメになるんだねっ」

次のフレーズを遮るように、弾んだ声でキミは言う。

 

ああ、そうだね。

キミの世界に不幸は存在しない。

 

海に行った子はウミガメに、

陸に向かった子は陸ガメに、

それぞれの地で幸せに暮らすのだ。

どうか、ずっとそのままで・・・

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