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ほんとうに効くクスリ•••

暑かった。

この夏は本当に、うんざりするほど暑かった。

エアコンなしに夏をやりすごすことなど不可能な今日このごろ。

天気予報の締めのコトバは

「エアコンを適切に使って熱中症に注意しましょう。」

デパートやカフェ、どこもかしこも室内をキンキンに冷やして

「ほぅらここは涼しいよぉ〜」

怪談口調で熱気に襲われた人々を誘う。

だらだらにうだり、汗腺も毛穴も開き、汗でベタベタになった状態で

ペンギンが喜びそうな温度へと飛びこむと、

す〜っと汗がひき、濡れた衣服は保冷剤となる。

開ききった汗腺から体内へと吸い込まれるように冷気が入っていく。

買い物が終わる頃、食事が終わる頃には

骨の髄まで冷えわたるものの、外へ出れば瞬時に汗が吹き出す。

そんなことを繰り返して元気でいられるほど頑丈ではないものだから

あっというまに「夏バテ」となる。

カラダもアタマも重く、ダルく、朦朧として、

何もやる気がおこらず、起き上がることさえツラいと感じる日が続く。

もしかしたら何か悪い病気かもと疑い、病院に行くものの検査で異常は見つからず。

食いしん坊で、肉食で、人生の喜びの半分は美味しいものを食べることだったはずなのに、

食べたいものが見つからない。 

そんなとき一緒に食事をしたのが、かつてバリバリのスノーボーダーだった友人。

気を使わなくてすむどころか、わがまま言っても許してくれる心優しい彼女に

オーダーのすべてをまかせて、うだうだしていた。

自分が何を食べたいのか分からない。何なら食べられるのかすら分からない。

アナタが頼んだものをつまむから、と。

メニューを見ながら次々とオーダーする彼女を見ながら

そんなに食べられないかも、と心のなかで呟いていた。

彼女の頼んだものはどれも味の想像のつかないような

私なら選ばないようなものばかりだったから、ちょっぴり不安になっていた。

それから3時間。

数々のお料理が、彼女と私の胃袋に消えていった。

味の想像がつかないからこそ、どんな味がするのかと箸をのばす。

予想外の味と想像以上の美味しさに、あれよあれよという間に完食。

「知らないメニューで美味しいものアテるの得意なの」

と、いたずらっぽく笑う彼女は締めの一品を選びだす。

ワインと梅酒と数々のお料理で、私達は夏の終わりの晩餐と

長いおしゃべりとを共に愉しんで、シンデレラタイムに帰宅した。

そして次の日。

いつになくパッチリと目が覚めて、すっくと起き上がる自分に驚いた。

いつもと何が違うのか。

とりあえず今日の私はバテていない。

いったい昨日は何をしたのだろう。

いつもよりほんの少し多く歩いた。

いつも食べないものを山ほど食べた。

たくさんおしゃべりして、たくさん笑った。

ちょっぴりグチもこぼしつつ

楽しいね、大好きだよ、ありがとうって言ってた。 

もしかしたら本当に効くのは、そんなカタチのないクスリなのかも知れない。